アーツアンドクラフツ運動とは
アーツアンドクラフツ運動とは
産業革命によって生まれた、工業化による安価で粗悪な大量生産品に対するアンチテーゼとして育まれた運動です。 表面上はアンチテーゼで中世帰りに見える活動ですが、逆説的にこの運動が後にモダン(近代)デザインを生む下地へとつながります。 運動は産業革命の地イギリスで起こり、ウィリアム・モリスの思想に大いに影響を受けたました。 モリスは当時工業化によって、貧富の差が広まり不平等感が社会を覆っていましたが、社会不安の元凶は工業化後の資本家による労働者への搾取にあると考え工業化を批判しました。 それら工業化による社会の歪みを解消するためモリスは、社会を工業化ではない方法で、近代化しなければならないと考えましたが、モリスが影響を受けたのがジョン・ラスキンの思想です。 ジョン・ラスキンは「芸術と職人がいまだに未分化の状態にあり、創造と労働が同じ水準に置かれていて、人々が日々の労働に喜びを感じていた時代」を理想とし、その元を中世ゴシック時代の建築に求めました。 ラスキンは中世ゴシック建築と作られた社会背景とを関係づけて論じたなかで、当時の物は、正しくつくられ、物への心からの愛着があったと述べており、中世社会自体によき精神が育まれていた結果が物に現れたと考えました。 その結果ラスキンは建築について、物の形態や外部に現れた装飾の形は、その物の構造を作る材料や本質が表層に忠実に表れた結果として表現されなければならないと考えました。本質が良ければそれを忠実に表現すれば、反映である形態も良くなるはずだからです。 本質は物の構造を決定する人々の社会生活ですから、社会精神が悪いければ、その表層としてのよき芸術は生まれなく、本質が良くならなければよき物の形態は良くない訳です。 よき物を作るためには、反映としての社会がよき社会精神を育まれなければならなりません。よき社会を作るのは人々のよき精神であり、キリスト教の教えではよき精神は他人を愛する事で生まれます。それを自己満足ではなく証明しなければなりませんが、証明は第三者に評価されることによって認められます。評価されるには他人のためになる事を成し遂げるなければなりません。それは献身的な労働から生まれる『人が喜ぶ物』を作ることにより証明になります。作ったものによって相手が喜べば嫌がられたのではなく、他人に愛を送った証明になります。喜ぶ物を作るには自らが創造の喜びを感じなければ相手に伝わる物は作ることは出来なません。つまり人々が労働に喜びを感じていれば、よき物が生まれ、よき物はよき芸術の表れで、社会がよき社会ことであることの表れでもありますから、労働自体が芸術活動となり、社会貢献になると言う思想でした。 一方当時の社会の表れとしての製品は工業化によって生み出された粗悪品であふれているとモリスは考えていました。社会が良くない方向進んでいるために表れとしての製品もまた良くないと考えられるのでした。 この様な状況の中でモリスは近代化によって揺れていた当時の生活様式とラスキン『理想の時代』の芸術との一体を図る事により、彼の理想を作り上げました。運動の方法は芸術面を高め、見直すことにより、下から上へボトムアップにより社会をよりよい方向に進めようと活動しました。 しかし、社会を変革するには理想主義ではなく万人に受け入れられる普遍的な価値を提供しなければなりませんが、モリスが重点を置いた手仕事による中世風の価値観は、入念な作業によってしか生み出されないとしたら、コスト面からも一部の社会上層の人々にしか受け入れられないとの矛盾をはらみました。 モリス没後、後継者たちは手仕事への追求と普遍性への矛盾で悩みましたが、これを発展させたのがドイツからイギリスへ調査に来ていたヘルマン・ムテジウスがドイツで立ち上げたドイツ工作連盟です。 ドイツ工作連盟は工業化を否定するのではなく、工業化によって生み出されるものを粗悪品ではなく、よき物にすることへの方法で変革することを模索しました。 |